天袋の修復前の様子です。中央部が大きく裂けています。補強のための下張りの和紙が粗悪で襖紙の劣化とともに表面の張力に耐えられなくなって自然に裂けたようです。

表面は金箔仕上げになっていますので、 継ぎ目を目立たせず、修復することは 一般的に難しいです。

まず、襖椽をはずします。
そして、襖紙を、水に漬けて、はがします。

この段階で、作品が崩壊したり、色あせたりして、台無しになってしまうこともありますから、細心の注意が必要です。

過去に手荒な修理をされていると、大変な作業になります。 場合によっては、それが原因で修理できないこともあります。

毎回、必ずきちんとした修理をすることが、作品を長く保つためには重要です。

襖紙の裏側に付いている下張り紙をはがします。 まだまだ、細心の注意と根気の要る作業が続きます。

業者によっては、技術力不足のために、裏紙をはがさないままにすることがあります。
見た目は綺麗になりますが、すぐに再び裂けてしまいます。そして、その後の再修理はとても難しくなります。

裂け目をきっちり合わせ、裏打ちをします。この合わせの作業をきちんとしないと、後で引きつりができたり、再び裂けたりします。

さらに補強の裏打ちをしてから、仮張りで乾かしてめくったところ　 ここまでくれば、一安心です。

元の位置に張り戻します。
そして、椽と引き手を打って完成です。
指摘しなければ、破れていたことが分からないほどの上々の仕上がりになりました。

【作品データ】
作品寸法　巾40㎝ｘ丈30㎝
仕上寸法　巾40㎝ｘ丈30㎝
危 弱 度　中度　　 汚 染 度　軽度 　 修復、仕立代金　\30,000.-　

写真だけで見ると、破れがあるくらいで、大した問題はなさそうに見える例です。
ところが・・・・・・よく、ご覧下さい。
修復前の襖絵の表面に、鶴の左下や引き手の周辺、そして、上部に黒く見える線が這っています。これは過去に行った、悪い修復の後なのです。
表面から破れた部分だけに糊をつけ、繕って、「誤魔化した」と言って良いくらいの修復内容です。その糊が変質し、黒く変色しているのです。
しかも、上部が黒くなっています。これは表面から色をつけて、継ぎ跡を誤魔化しているのです。

【作品データ】
作品寸法　巾90㎝、丈175㎝
仕上寸法　巾90㎝、丈175㎝
危 弱 度　重度  汚染度　最重度 　 修復、仕立代金　\500,000.-